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宮司講話集

「南方熊楠と自然環境保護」 
 平成22年4月11日 大和祭にて

 
 本日は神石大平和敬神が昭和45年に創建されましてより丁度40年目という記念すべき大和祭に当ります。皆様本当によくご参列給りました。又、日頃は神石の清掃奉仕を頂き厚く御礼申し上げます。

 さて白浜温泉の景勝地に南方熊楠の記念博物館がありますのをご存知の方もいらっしゃると存じますが明治時代の著名な博物学者である熊楠は自然環境保護の大切さを一早く人々に訴えた人としても大変有名な方でいらっしゃいます。明治の始め文明開化の名の元に、神社合祀政策が始まり、19万社あった神社が11万社に統合され、約8万社の小さな社や祠が失われました。南方熊楠は柳田国男らと共に神社合祀中止運動を起こし、大正9年ようやく神社合祀政策は終息したのであります。
 この中止を訴えた熊楠の意見書を見ますと「小さな社、祠であってもなくなってしまうと祠の周辺の林が荒れ、ご神木だった大木は伐採されてしまい、周辺の自然環境が著しく悪化する」という環境保護の先駆的考え方でありました。さらに熊楠が一番強調したことは、神社やそのまわりの林、池等は人の心を清らかにし、いかに無学な人達であっても自然に感化していくものであり、神社を守ることは自然と共に生きるという良き国柄を守ることであるということで、これはまことにすごい著眼であると存じます。
 19世紀から20世紀の近代社会の風潮としてアニミズム等理性的でない宗教のあり方が非常に蔑視されましたが、明治政府もこの欧米の風潮にならって、胡散臭いにおいのするものを排除すべく廃仏毀釈運動とか、神社合祀政策を行ったものと思われます。現在では各宗教共、各々の教義を理性的に純化しかえって行きづまってしまい原理主義といった鬼子まで出てきました。21世紀は諸宗教がおおらかに認め合い、理論のみにこだわらず、多様性を楽しむ方向に向かっており、南方熊楠の考え方はそのさきがけであった訳であります。
 ひるがえって建勲神社の神域の森も自然環境保護やCO2削減に資するにとどまらず、南方熊楠の言葉を借りれば、厳かな森にお社の社殿がとけこんでいる姿が自然に人々の心を清らかに穏やかに導き、日本の良き国柄を守ることにもつながるのだと改めて感じる次第であります。

 さて建勲神社のご社殿は5棟が桧皮葺でありますが昨年夏すべて葺替が竣工し、お蔭をもちまして本日40周年記念の大和祭に当り捧誠会の皆様に5棟すべてのご社殿の美しい姿をご披露申し上げる事となり、大変嬉しく存じております。
 本日は皆様、大和祭にご参列頂き本当に有難うございました。本日お集りの皆様のご健勝と捧誠会の弥栄をお祈り申し上げ、ご挨拶とさせて頂きます。

(以上)